彼 – HI –

彼 HI ひ 家禅 IEZEN.JP

迷いの此岸から悟りの彼岸へ

From this shore of illusion to the other shore of enlightenment.

煩悩の此の岸に立ち
悟りの彼の岸を望む
隔てるは川にあらず
我が心の迷いなり

選字の背景: 秋のお彼岸が始まる日。此岸から彼岸へと、思いを馳せる。

今日から秋のお彼岸です。「彼岸」とは、文字通り「彼の岸」、すなわち向こう岸を意味し、煩悩や苦しみに満ちたこの世である「此岸」(しがん)に対して、悟りの境地である涅槃の世界を指します。春と秋の二回、昼と夜の長さがほぼ同じになるこの時期に、先祖を供養し、自らの修行を省みるのが、日本の古くからの習わしです。

この「彼」という一文字は、私たちに、今いる場所とは異なる、理想の世界への憧れを抱かせます。私たちは皆、苦しみのない、安らかな境地に至りたいと願っています。しかし、禅の教えは、その「彼の岸」が、どこか遠い場所にあるのではない、と説きます。

詩の後半が示すように、此岸と彼岸を隔てているのは、越えがたい大河などではなく、私たち自身の「心の迷い」に他なりません。悟りは、死んだ後に到達する世界ではなく、この現実の生活の只中で、今ここで見出されるべきものです。煩悩の波に翻弄されながらも、その足元にこそ、悟りの大地が広がっているのです。お彼岸の期間は、お墓参りを通して、亡き人々、すなわち一足先に「彼の岸」に渡ったとされる先祖と対話する時です。その静かな時間の中で、私たちは、自らの生き方を見つめ直し、心の迷いを払い、今ここに確かな一歩を踏み出す力を、彼らから授かるのかもしれません。

 

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