環境に染まりつつも、自己の本質を見失わない
Adapting to the environment, but not losing sight of one’s true essence.
選字の背景:“染まる”を受け入れ、己の本質をもって輝く。
季節がが進み、山肌が日に日に秋色に染まってゆきます。しかし、その葉一枚一枚が、散る瞬間まで楓(かえで)は楓、欅(けやき)は欅であるように、万物は自らの本性を抱きしめているように見えます。「染」という文字は、水(氵)と、草木(木)から採れる染料を連想させます。清らかな水に色を溶き、真っ白な布を浸す。布は水を吸い込み、その色を全身で受け入れ、新たな彩りを纏います。人と人が交わり、環境の中で生きていくことも、これと似ています。私たちは他者の言葉や文化、様々な経験によって、日々少しずつ染められてゆくのです。しかし、大切なのはここからです。藍(あい)に染まったからといって、布が絹や麻としての本質を失うわけではありません。むしろ、その布だからこそ出せる色の深みや風合いが生まれます。環境に染まることを恐れる必要はないのです。むしろ、それを受け入れ、味わう。ただし、自分という布地の「本質」―大切にしている信念や、生まれ持った感性―だけは見失わない。外からの色を纏いながらも、内なる芯は少しも揺らがない。このしなやかな強さこそが、この教訓の魂なのでしょう。真っ白な和紙は墨の色に染まります。けれど、紙そのものの質が良くなければ、墨の滲みは濁り、線は生命を失います。紙がその本質を保っているからこそ、墨は最も美しく映えるのです。