
着実に、一歩一歩、自らの道を進む
Steadily, step by step, I walk my own path.
選字の背景:二百二十日にもあたり、秋が着実に深まっていく日。焦らず、着実に進むことの大切さを思う。
「歩」という文字は、私たちの人生そのものを象徴しているかのようです。それは、目的地に向かって、一歩、また一歩と、足を運び続ける地道な営みです。老子の言葉に「千里の道も一歩から」とあるように、どんなに壮大な目標も、偉大な事業も、すべては、今ここから踏み出す、ささやかな一歩なくしては始まりません。
詩は、その一歩の重要性と、歩み続ける上での心の持ちようを詠っています。「急がず 休まず」。これは、禅の修行における「中道」(ちゅうどう)の精神を表しています。過度な精進で心身を追い詰めることなく、かといって怠惰に流されることもなく、常に平常心を保ち、淡々と為すべきことを続けていく。その着実な歩みこそが、最も遠くまで到達する方法なのです。
書においても、一本の線を引くことからすべてが始まります。一見、単調に見える基礎練習の繰り返しが、やがては気韻生動する傑作を生み出す礎となります。私たちは、すぐに結果が出ないと焦り、歩みを止めてしまいがちです。しかし、大切なのは、結果ではなく、今この瞬間に、しっかりと「大地を踏みしめて」いるという実感です。今日という一日、自分にできる範囲の一歩を、確かな足取りで踏み出す。その積み重ねが、いつしか思いもよらなかった景色へと、私たちを導いてくれるでしょう。
