寂 – JYAKU –

”寂 JYAKU じゃく 家禅 IEZEN.JP”

静寂は無ではなく、万物が満ちている状態

Silence is not nothingness, but the fullness of all things.

選字の背景: 無音の世界にこそ、万物の響きが満ちている。

夏の蟬時雨が遠くなり、季節が進む毎に、音の減った世界はどこか物寂しいと感じるかもしれません。私たちはしばしば、静寂を恐れるあまり、音や情報で絶えず自身を埋め尽くしてしまいます。この教訓は、その逆の道を指し示してくれます。静寂とは、何かが「無い」状態なのではなく、むしろ、普段は聞こえないもの、見えないもので「満ちている」状態なのだと。耳を澄ませば、風が木の葉を揺らす音、小さな虫の羽音、遠くで響く鐘の音、そして自分自身の呼吸の音が聞こえてきます。心の騒めきが静まったとき、私たちの感覚は研ぎ澄まされ、世界のあらゆるものが、その存在の声を放っていることに気づかされます。それは、禅で言う「空(くう)」が決して虚無ではなく、あらゆる可能性を秘めた豊かさであることに似ています。書における「余白」が、描かれた線をより一層生かすように、人生における「寂」の時間もまた、私たちの生をより深く、豊かなものにしてくれるのでしょう。

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