
逆境に咲く高潔さと、内なる香気
Nobility and inner fragrance that bloom in adversity.
選字の背景: 真の高潔さとは、逆境でこそ薫り立つ心の香気。
十月に入り、朝晩は肌寒さを感じるほどになりました。春や夏の華やかな花々が姿を消したこの時期に、まるで季節の主役を宣言するかのように咲き誇るのが菊の花です。古来より、菊は、その咲き様から「高潔」の象徴とされてきました。暖かく、誰もが活動しやすい時期ではなく、万物が静まろうとする冷涼な空気の中で、背筋を伸ばし、気高い花を咲かせる。その姿が、順風満帆な時ではなく、困難な逆境の中にあっても、己の節を曲げない人の姿と重なります。真の品格とは、そのような時にこそ現れるものです。そして、「内なる香気」とは、そのようにして貫かれた高潔な生き方から、自然と滲み出る徳の香りのことでしょう。それは、見せびらかすためのものではなく、ただそこに在るだけで、周囲を清らかな気持ちにさせる、魂の芳香です。一本の菊が、ただそこに咲いているだけで、秋の庭が引き締まり、気高い空気に満たされるように。私たちもまた、困難な時にこそ、自らの内なる香りを静かに放つ存在でありたいものです。